平成22年度 校内実践研究
Ⅰ 研究計画について
1 研究主題
児童生徒の病種や障害種に応じた教育的・医療的配慮のある教育の充実を目指して
2 研究主題設定の理由と目的
本校は、病弱教育を専門とする特別支援学校であり、全国でも数少ない神経筋疾患を専門とする学校である。そのため、本校は病弱、特に神経筋疾患の教育の専門校として、病気や障がいに対して教育的かつ医療的な配慮を基にした質の高い教育を追求していくことが課題となる。
昨年の研究成果として以下の三点が挙げられる。一点目は病種や障がい種に絞って研究を行ったことでより児童生徒の実態に合った指導や実践ができたことである。二点目は、複数のテーマで実践を行ったことで本校児童生徒の抱える様々な課題に対する実践が行われたことである。三点目は、医療や教育におけるアカデミックなデータに基づいた研究が有効なものであったことである。
これらのことをふまえ、今年度の校内研究は基本的には昨年度の研究を踏襲し、児童生徒の病種や障がい種に対応した教育的、医療的配慮のある教育の充実を目指したものとする。そのためにもテーマを一つにするのではなく、各職員の希望を取り、担当している児童生徒の実態に応じた様々な教育実践を研究の対象としたい。ただし、病弱教育としての専門の充実を目指し、医療的配慮や教育的配慮を明確にした研究となることが望ましいと考える。
加えて、学習指導要領の改訂に伴う教科指導の充実(学力向上)等の視点を加味した上で、病弱教育の専門校として創造性のある研究を目指したい。
3 研究推進の方法
- 単年度の取り組みとする。
- 研究内容の希望をとり、病種と実態に応じてグループを分ける。
(研究内容によって1~8名程度) - 基本的に公開授業研究会に授業を公開する。
(ベッドサイドのグループや研究内容によっては授業を公開しない) - 推進は各グループで行う。
- 毎月1回を研究日とし設定する。
- 全校研究会を2回行う。(5月と7月)
- 研究のまとめは2月の校内研究発表会で行う。
- 紀要はCD-Rで作製する。
月 | 校内研究 | 研究日 |
---|
4 | | |
5 | 全校研第1回(希望調査) | |
6 | | 4日(研究テーマと設定理由) 22日(研究内容と方法の具体化) |
7 | 4日 全校研第2回(構想発表) | 2日 (構想発表にむけて) |
8 | | 31日(授業研究にむけて) |
9 | | 10日(指導案の作成) |
10 | | 15日、26日(指導案の検討) |
11 | 8日~19日 公開授業研究会実施 | 9日(指導案の検討) |
12 | | 3日(授業の評価反省) 21日(研究のまとめ) |
1 | | 25日(校内研究発表会にむけて) |
2 | 12日 校内研究発表会 25日 紀要原稿提出 | |
3 | 中旬 紀要完成 | |
Ⅱ 研究の成果と課題について
1 研究の成果
(1)実践の成果
平成22年度も児童生徒の病種や障害に応じた教育の充実を目指し、病種を基本として担当する生徒や指導教科によって希望を取り、小グループの研究を行った。神経筋疾患の児童生徒の研究は5つのグループ、重度重複障がいの児童生徒の研究は3グループに分かれた。
神経筋疾患の児童生徒のグループの研究は各教科の指導をはじめ、学力向上、新学習指導要領の改正、進路指導、事例研究、教育内容の工夫改善、と内容は多岐に渡った。
小学部、中学校に準ずる教育「各教科の指導」のグループは、児童生徒の基礎学力の向上を目指した研究を行った。生徒の実態を把握するために本校コーディネータと連携し、WISCⅢ発達検査を用いた評価・分析を通して、教科指導における具体的かつ効果的な指導方法を明確にすることができた。
高等部、高等学校に準ずる教育「各教科の指導」のグループは、新学習指導要領の改正点を各教科ごとに踏まえながら、生徒個々の実態にあった指導を検討した。言語活動を基にしたコミュニケーション能力の育成と、デジタル教材を活用した自ら学ぶことができる環境設定が今後の課題となった。
高等部、高等学校に準ずる教育「進路指導」のグループは、神経筋疾患をもつ生徒は何れのライフステージにおいても生涯にわたり適切な支援を要する対象と捉え、自己の環境を構築するために必要な能力をコミュニケーション能力とマネジメント能力とした。その上で、ICFを用い「環境因子」と「個人因子」の結びつき強化をねらい、PDCAのマネジメントサイクルを指導に活かした。
高等部、重複障害のある生徒の教育のグループは、神経筋疾患と知的障害を併せ有する生徒の卒業後の適応と成長を目指し、疾患独自の配慮点について考察した。疾患の異なる4名の事例研究を取り上げ、個々の生徒への指導の配慮点を明らかにした。また、進路指導の取り組みをまとめ、関係機関との連携や校内連携について整理した。
体育科グループでは、神経筋疾患児童生徒への体育指導おけるニュースポーツ開発を行った。新たな種目として「車いすベースボール(仮称)」を創造した。
重度重複障害の児童、生徒のグループ研究は小・中学部、高等部、ベッドサイドの指導とそれぞれの学部で行われた。
小学部、中学部のグループは、児童生徒の集団活動におけるかかわりの広がりを目指した研究を行った。障害が重度かつ重複している児童生徒の集団活動は、場合によっては、形ばかりの集団になりやすい。その現状に目を向け、学習における意図的なかかわり場面を整える取り組みを行った。課題として、児童生徒個々がどのように他者を意識しているかの分析が必要とまとめた。
高等部のグループは、自立活動の指導要素を考察した。教育課程において自立活動を主とする編成がなされてはいるが、これまで自立活動と各教科の関連を検証することが少なかった。よって、自立活動で行われている活動内容を細分化して、各教科指導との関連を整理し、一覧表にまとめる取り組みを行った。関連が焦点化されたことにより、生徒個々の目標が明確化され、授業がより意図的に行われるようになったとの改善が報告された。
高等部、重複障がいのある生徒の教育「ベッドサイド教育」グループは、ベッドサイド生徒の双方向のかかわりについて取り組んだ。障害が重いため入院生活が長期化しており、常に医療的支援が必要な環境で学ぶ生徒にとって、人とのかかわりをどのように保たせるかを課題とした。授業実践を通し、アセスメントの重要性を再確認する結果となった。
その他のグループの研究としては、コーディネータによる教育相談の現状が報告された。
今年度の相談件数がデータとして示され、相談件数が年々増加していること、個々の事例から学校組織への支援に移行していることなどが明らかになった。特別支援学校は組織として地域のニーズに対応してくべきとの意見も述べられた。
以上のように、児童生徒の個々の病種や障がいに対応した研究を行うことができた。
(2)研究のまとめ
本校の目指す教育は病弱教育、特に神経筋疾患の専門校として、児童生徒の病気や障がいに対応した教育的かつ医療的な配慮のある質の高い教育である。今年度は、児童生徒の病種や障がいに絞って少人数のグループを編成し、児童生徒のニーズや課題に対応した研究を行うことで、様々な事例を蓄積することができた。
今後も本校の病弱教育の専門性を高めるため、病気や障害に対応した教育的・医療的配慮のある教育の充実を目指すことが必要である。本校の神経筋疾患の児童生徒数は、年々減少傾向にある。全国的に見ても特別支援学校への在籍が減少している中、今ある集団の強みを活かした実践と研究の集積を行い、病弱教育の特別支援学校として研究実践を積極的に発信していくことが課題となる。
2 今後の課題
(1)病弱教育の専門校として、より児童生徒の病気や障害に応じた医療的配慮や教育的配慮のある実践の充実。
(2)医療や教育におけるアカデミックなデータに基づいた研究の推進。
(3)疾患に特化した教育実践とその研究の集積、発信。